晴釣雨読

As the train goes through the mountain path, leaning on the lightcyan window, only I would think about my fun.

友人Sとほぼ1日まるまるを過ごす。

多分10時間ぐらい、ずうううううううっと喋りっぱなし。
あたくしは常に、まあひとつは英語力のために、日本語ならではの表現とか日本文化でしか理解されない表現とかに鋭敏に反応するように自分を仕向けているんですけど、彼女はガイジンなのでそこに更に「ガイジンの視点」というものを足してくれるので大変ありがたい存在である。

例えば交通整理の警備員

S「考えられないわ。親切心なのはわかるけどウザイこともある」
私「そおねー、道路工事は多分義務だと思うけど、スーパーとかはあれは身銭を切って親切心をやってるんじゃないかしら」
S「うちの国なんて工事なんかそのまま、ただサインが出てるだけでいいのよ。別に渋滞するほど車混んでないし」
私「渋滞しないんだったらいいんじゃないの。でもこの辺にいる工事の警備員って頭わるすぎ。渋滞作ってるもん。行けって言うから行ったのに思いっきり対向車線も向かってきてて、にっちもさっちもってことがしょっちゅうあるもの」
S「だってあの人たち、無線使ってないでしょう、ほとんど」
私「そうなの。変な手旗信号で適当に意思疎通してるからそうなるのよ。こっちは運転してる側だから、「行け」って言われても「どこをどう考えても、今行ったら絶対にスタックする」ってわかるんだけど、そういうときはどんなに急いでても行く」
S「へー。行くんだ。」
私「そう。絶対に言われたとーりに行って、思ったとーりにスタックして、あんた一体どうしてくれんのよって顔してギアをパーキングに入れて寝たふりしちゃうね」
S「親切じゃないわよね、不親切な親切心は」
私「よくぞ言ってくれました。お国の皆様には、日本は不親切な親切心が跋扈してるってちゃんと説明してね」
S「わかった」

例えば歴史問題。

本当に疎いのでねー。日本史すら怪しいのでねー。高校のときもうちょっと真剣に将来を見据えていたら、自分が将来損しないようにって勉強したのになあ。
「どうして韓国の人がダブルネームなのかはわかるけど、名前を日本語にしちゃうっていうのは、あれはどういう意味?」
と聞かれて本当に困ってしまいました。
彼女によると、なぜダブルネームが理解できるかというのは、以下のとおりでした。
「スラブ語圏とゲルマン語系の間では全く音が異なるため、お互いの名前の認識を平易にする目的で発音を似せた姓で自分を紹介することがよくあるが、あたしはそれはしなかった」
また姓を日本語に変えてしまうことが理解できないのは、
「結婚して姓が変わったのだって随分なアイデンティティ・クライシスだったのにさ、家族がまるごと姓がある日変わりますってことになったら、気絶ものだと思う」
でした。

さて、韓国の人についてあたしはよくよく考えたことが

ただの一度もなかった。強いて言えば、「在日」とだけ言って「在日韓国人」「在日朝鮮人」を意味を示唆された場合、「在日」というただの形容詞が蔑称に聞こえて大変不愉快なので、誰かがうっかり在日なんて言おうもんなら「在日ノルウェー人?」などと絡んでたぐらいでした。

長い歴史を曖昧な記憶でひもといていくと、

私の中で在日の韓国の人というのは、このような解釈でした。
「第二次世界大戦のどさくさに日本に無理やり連れてこられて、そしたらいきなり戦争が終わって祖国にも帰れなくて、気付いたらパスポートがなくて、多分申請すれば韓国からのパスポートはもらえるけれども、祖国につてのない人々は、日本に残らざるを得なかった」
「そうやって残らざるを得なかった韓国の人々は、当然日本と日本人に恨みがある。そうやって残った韓国人を、日本人は当然のように蔑視して、結果、デリカテッセン系とパチンコ系というのはほとんどが在日韓国系の人の仕切るところとなりました」

そこで彼女につっこまれた。なんでデリカテッセンとパチンコなのよと。

「デリカテッセンは多分、それまで韓国の人がいない間、長い長い鎖国の間もきっとそうだったんだと思うんだけど、身分が卑しいとされた人に任されてたんだと思う。だから第二次世界大戦後、もっと蔑視する対象が現れて、押し付けたんじゃないかと思う」
「どうしてデリカテッセンが卑しい人に押し付けられるの?」
「最初に動物を殺す作業があるから、みんな進んでやりたがらないから、じゃない?」
「なるほどね。それと名前を変えちゃうのと、どう関係があるのよ」
「いや長い話だから聞いて。で、FirstGenerationは爆裂に苦労したんだけど、デリカテッセンはそれなりに韓国の焼肉の需要を仕切れる利点があったし、ギャンブルはギャンブルで一大産業に成長したから、3rdGenerationぐらいの今になると、ものすんごいお金持ちだったりするわけ」
「なるほどね、それはわかるわ」
「で、『もう韓国に戻ることもないし、育ったのは日本だし、母国語も日本語だし、韓国語なんて挨拶程度も知らないし、風習として韓国が残ってはいるけど、結局このまま日本で日本人のように生きていくんだから、正式に日本人になった方が得だと思う人』は、日本語の名前にしちゃうんじゃないかしら」
「全っ然理解できないわ。韓国人と日本人が結婚して日本名を取るかどうかはその夫婦の権利だけど、韓国人同士で結婚してるんだったらそんな必要ないじゃない」
「いやそれも思うけど、でもやっぱり自分のおじいちゃんおばあちゃんがめちゃくちゃ苦労した話を聞いてたら、名前変えて身を守らなきゃ死んじゃうぐらいの危機感を、あたしなら抱くと思う」
「ふーん、でも名前が変わるってことは、パスポートはどうなるわけ?」
「韓国のパスポートから、日本のパスポートになるのよ。国籍が変わるの」
「ねえねえねえ、ちょっと待ってよ。それってものすんごく重大な決断なんじゃないの」
「だと思う」
「ねえ、日本国籍ってそんなに簡単に取れるもんなの?ガイジンが申請していきなり、観光ビザみたなスピード発行ってありなの?」
「そうなんだよねえ。確かに速いんだよねえ」
「あたし聞いたことあるわよ。相撲レスラーのコニシキだかアケボノだか忘れちゃったけど、日本国籍取るのに10年かかったって。日本文化にそんなに多大な貢献をした有名な外人に10年も審査の時間かけといて、在日の韓国人にははいどうぞってすぐ渡すのはどうしてよ?」

こうやって順を追って聞かれて、自分でも初めてクリアになった。

「そりゃやっぱり、日本政府が過去の贖罪が必要だと思ってるから、在日韓国系の人の申請はすぐに通すようにしてあるんじゃないかしら」
「なーるほどね。よっくわかったわ」
「あたしも初めてわかったわ。聞いてくれてありがとう」

彼女は彼女で、第二次世界大戦では大変苦労していて、

それまでゲルマン語系の国に住んでいて、戦争が終わったら「国境が変わっちゃってて」スラブ語圏になってしまいました。
ずーーーーーーーーーっと同じところに住んできたのに、今も住んでいるのに、それまで彼女の家庭で母国語であったゲルマン語系は、新しい国の新しい政令によって、喋るのも書くのも禁止になってしまった上に、絶対の絶対に公用語であるところのスラブ語圏系某言語を喋りなさいということになりました。罰則つきの大変厳しい政策。

「大変だったわよ。あたしはいいけど、両親がさ」

確かにいきなり母国語を変えろと言われたら、とんでもなく混乱するだろう。間違いなく。
ていうか替えられるところが凄いんだよね、ヨーロッパの人ってさ。基本的に横文字なのは似てるし、彼女はそのゲルマン系とスラブ系は全然違うんだって言い張るけど、でも日本人のあたしには「西欧のコトバ」として同じ箱に入れることができる。

「あたしが西欧人を羨ましいと思う理由のナンバーワンはさ、

おたくのあたりは侵略に次ぐ侵略で人が混ざりまくってるからなんだけど」
と言うと、当然のことですが
「いやそれはそれで結構大変よ」
と十字軍の遠征の話になってきたので、
「ごめん、歴史勉強してくるからちょっと待ってくれる?次回必ず聞くから」
となりました。

もし今日の記事に反論があってもあたしは取り合わないことを宣言しておきます。

日韓両国の関係がいかに繊細かというのは、疎いこのあたしでもよーくわかっていることなので、あたし個人の基本的スタンスにあるのは「人イコール人。猿ではない」程度のセントラルドグマだけです。その人に足が3本ついてても、その人の右手に指が8本ついてても、植物人間で人工呼吸器によって生きている人でも、その人は人です。その人が腰で癒着した双子でもその人は人です。もっと言うなら、その双子が映画を見るときにチケットを1枚しか買わなくても、「私達は2人だ」といえば2人です。